ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:感覚知覚の機能不全---五感のうち,視覚と聴覚

「Healing Children’s Attention & Behavior Disorders: Complementary Nutritional & Psychological Treatments」。

今日は感覚知覚の内容へ入っていきます♪

診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:感覚知覚の機能不全---五感のうち,視覚と聴覚

・感覚の障害は学習や行動を大きく作用するので,感覚の障害があることをきちんと診断し,感覚知覚がどのように思考や行動に影響するのかを理解する必要がある。

・五感のほか,身体のサイズや形や身体と空間・重力との関係を把握する固有受容覚もある。

・これらの感覚が環境からの情報を脳に伝え,脳で翻訳・安定化する。それによって環境の変化による衝撃が和らいだり生きやすい安定した世界を作り出せたりする。

・感覚の障害は,感覚器・感覚器と脳を繋ぐ神経・脳そのもののどこかの欠陥で生じる。

≪視覚≫
・視覚機能がうまく働かないと,形や色が違って見えたり,物が動き出したりする。

・文字や数字が裏返ったり上下逆さまに見えることや,単語が動いたり罫線が滑り出したりすることもある。これはディスレクシアや読字障害と呼ばれ,読むことや綴ること,文章の理解が難しくなる。疲れたときやしばらく読む努力をした後に現れることもある。眼科などへ連れて行かれることも多いが,メガネでは解決しない。

・読字障害は知的能力とは関係ないが,知的能力が高い場合は代替方略を見つけるのがうまい。耳から聞くほうがうまく学べると気付いたりする。代替方略が使えないと,学習遅進者に見えたり知的障害があると判断されてしまったりする。課題に取り組むのに膨大な時間が掛かり,遊ぶことも含めて課題以外のことをする時間がなくなる。

・ケース:始歩1歳半,初語3歳,文章が5歳まで出なかった男児。小1を2回やった。精神科医からは「知的障害,治らない脳障害」と診断された。学習意欲を保ちとても努力していた子だが,1日にナイアシン(B3)3g,ビタミンCを2g,ピリドキシン(B6)250mgを摂って糖質制限も行ったところ「初めて本を3冊読破できた」と語り,大学に進むこととなった。普通はこれほど意欲を保つのは難しく,本を読むのを避けるようになる。

・ハンガーに掛かった服がおばけに見える,悪夢を見るなどの錯視のある子もいる。布団をかぶって怯えたり走って逃げたり朝起きて叫んだりすることもある。常夜灯なしで寝つけるかどうか観察し,寝つけないなら何が怖いのか率直に尋ねてみるとよい。

≪聴覚≫
・聴覚は環境からの情報を視覚ほど多くは拾わないが,視覚よりもコントロールしづらく,敏感。

・聴覚は耐えられないほど大音量で聞こえるようにもなれば,全く聞こえなくなることもある。音の出所がつきとめられなくなると,音に意味を与えることができなくなり,発話の発達も難しくなる。これは自閉症の子どもの困りごとのひとつでもある。前景の音と背景の音を区別するのも難しく,環境に翻弄されることになるので集中困難へつながる。

・多くの子どもたちには声が聞こえることがあるが大抵は無難なもので,名前を呼ばれた気がして聞こえたと思われる方向へ振り返ったりするというもの。後ろから足音が聞こえる気がすると夜間に外を出歩きたがらなくなる。

・幻聴は,室内の軋み音から始まることがある。自分に話し掛ける声や自分のことを話す声が聞こえたりもする。自分の考えが声になって聞こえる→他人の考えが聞こえる→他人の声が聞こえる,という順で進行する。

・ベンダー医師が幻聴・幻視のある小児統合失調症を10年間追跡調査したところ,半数が慢性統合失調症として州立病院に入院していたが,残りの半数はストリートギャングなどのサイコパスになっていて,以前幻覚など知覚変容があったことを彼らは覚えていなかったという。

・小児統合失調症の中には,成長してパーソナリティ障害やサイコパスになり,他者への共感性に乏しく自分の衝動を満たすためにわがままな振る舞いをする人がいる。その人の感覚の困難さが,他人を人とも思わず動物や使い古され間もなく捨てられる物のように扱うようにさせるのだ。


【ひとりごと】知的障害とみなされるほどの学習の困難さが栄養面の介入で好転した症例は興味深い。ただ,文中にあるとおり本人の意欲が保たれていたことが何よりの改善の源だったのだろう。
小児期の統合失調症症状とサイコパスの関連が説かれていたことにちょっと驚く。環境や経験からの影響があるとしてもベースには感覚知覚の問題があったと考えると見方が変わりそうな気がするし,幻覚を呈した子どもたちと関わるときにもこれまでと意識が違ってくるかもしれない。