ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:感覚知覚の機能不全---触覚,味覚と嗅覚,痛覚,臨床病理

「Healing Children’s Attention & Behavior Disorders: Complementary Nutritional & Psychological Treatments」。

ずっとこの本と向き合う投稿ばかりだったので、先週久しぶりに本以外のことを書いてみました。

できれば週2ペースで書く余裕がほしいところですが、なかなか定期更新は難しいかな…。

今日は、五感の残り3つ&その他です。

診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:感覚知覚の機能不全---触覚,味覚と嗅覚,痛覚,臨床病理

≪触覚≫ ・触覚に関する錯覚や幻覚はとても稀。指で触れられていると感じ,天使が触っているんだという結論に至った統合失調症患者を2-3人診たことがある。

≪味覚と嗅覚≫ ・味覚・嗅覚の知覚異常はおとなでは稀,子どもではさらに稀。味覚と嗅覚の関連は深く,臭いが違って感じられたら味も変わったと感じる。風邪をひいたときなどに経験するだろう。

・ワインや食べものの味利きをする人は匂いからチェックする。匂い(臭い)は生存のためにも,食べものが危険ではないか,傷んでいないかの警告として重要。

・子どもに多いのは,亜鉛不足による味覚障害。思春期摂食障害の原因にもなる。亜鉛不足による味覚障害は高齢者にも少なくない。味が薄い・苦いと感じたり,単に食べなくなったりすることもあり,命に関わる問題。

・食べものを「苦い」と感じる味覚の変容は,パラノイド症状の主要なもののひとつであった。昔は薬が苦かったため「誰かに毒を盛られた」と感じやすかったが,現代の薬はほとんど甘く作られているのでこうした妄想は廃れつつあり,この10年で一度も出会っていない。

≪痛覚≫ ・統合失調症患者の中には発症前ほど痛みに敏感ではなくなる人が数名いる。子どもの場合もそうなのではないか。

≪臨床病理≫ ・錯覚や幻覚は種類や組み合わせも合わせると膨大な数あり,すべてをリスト化する必要はないが,診断のため,またその子の行動背景を理解するために必要な情報は得るべき。

・子どもは自分から表現するのは得意ではないので,ダイレクトに尋ねるのがいい。

  1. 「まわりの人があなたを見ていると思いますか?」 人に対する過敏性を明らかにするための質問。よくも悪くも特別注目されていると感じていて,そのために隠れたり登校を避けたりといった行動をとる。

2.「読むことは難しいですか?」 読字障害やディスレクシアの可能性を明らかにするだろう。聴覚的ディスレクシアについても尋ねるべきである。

3.「あなたのまわりのものが奇妙に見えることがありますか?」 幻視に関する領域が明らかになるだろう。

4.「あなたには幻が見えますか?」 子どもにはまずよくない夢や悪夢について尋ね,影の錯視や幻視について尋ねるのがベスト。暗いところだけ,あるいは日中だけみられることもあるだろうし,時には完全に目覚めた後に悪夢が何分間も残存することもある。

5.「自分の考えが聞こえてきますか,声が聞こえますか,非現実感がありますか?」

・感覚領域から尋ね始め,もっと深く聞いていく。すべて否定されればよいが,あまりに妄想的だったり質問者を疑って語らなかったりするかもしれない。親がこういう話題を好まないことにこどもたちは気付いている。幻覚はあたりまえにあると思っているので,子ども同士ではお互いわざわざ話題にしない。

・悪夢について尋ねた後は,錯視があるかどうかを確かめやすくなる。日中にも見えるか確認し,もしあれば事態はより深刻で,完全な幻覚への広がりが示唆される。

・不幸なことに,幻覚が見える人がいるということに自分がそうなってみないと気付かない人もいる。精神科医でさえ難しいかもしれない。鮮明な幻視があるのに信じてもらえず,ヒステリーやサイコパスと診断された患者をたくさん知っている。LSDのような幻覚剤は統合失調症症状を健常人にももたらすが,こうした薬物を使用したことのある看護師や精神科医は患者の幻覚症状をより理解できるよい治療者となる。

・親も教員もあまりにも辛抱強くないので,学習障害のある子は子どもの頃学習障害だった教員に教わるべきだと考える。その方が辛抱強くて子どものニーズにも敏感になれる。

・知覚したことが真実か錯覚・幻覚かを判断する能力は思考障害の有無や,知性,年齢,本人のパーソナリティにも依る。本人の過去の異常な感覚の経験や本人の合理化能力にも依る。しかしそれよりも,感覚を通して本人にもたらされる感覚のタイプと関連する感覚の数が重要である。数日にわたって自分についてくる犬の幻視や,声を発し自分に触れてくる人間の幻視などの存在を信じないことは難しい。

・患者は精神科医に知覚の変化について話さないだろうし,医師の方も患者に尋ねない場合が多すぎる。そして患者から話を聞いた医師が,この患者をヒステリーと考えて「偽の」幻覚と呼んでいたというケースも知っている。


【ひとりごと】薬物が苦かった時代に多くみられた「苦い」という幻味が時代の変化で減ってきているというのが面白い。 わざわざ尋ねないと幻覚について語らない患者さんが多いということは十分心に留めておきたい。