ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:思考障害

「Healing Children’s Attention & Behavior Disorders: Complementary Nutritional & Psychological Treatments」。

今日のテーマは4領域のふたつめ、思考の障害です。

診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:思考障害

・知覚や感覚の錯覚・幻覚が存在するだけでは病気のレベルは決まらない。知覚の変化を真実だと結論づけるような思考や認知の障害があって初めて精神病的になる。幻覚剤に影響されている健常者のほとんどが,知覚変化は薬の影響によるものだと受け入れている。

・似たような経験をした人間がふたりいた場合,経験と遺伝のコンビネーションであるパーソナリティと呼ばれる要素に基づいてそれぞれが異なる反応を示すだろう。火事が起こったら,ひとりは逃げ出し,もうひとりは火に近づくかもしれない。視覚的経験は同じでも,それへの反応はパーソナリティが決定している。しかし,パーソナリティが同一でも違う反応を示したり,同じ人が時によって同じできごとを違ったように受け取ることもある。夕日が沈むのを美しく感じたり,原爆のように恐ろしく感じたりするなど。

・思考障害は,思考「過程」の障害と思考「内容」の障害のふたつがある。思考過程の障害は病期の終盤にみられ,毒性のある化学物質が脳障害を引き起こしていることを直接あらわしており,より重症であることを示す。思考内容はパーソナリティによって決まる。いずれも知覚障害に敏感である。小児では思考内容を測るのは難しく,喋ってくれなければまったくわからない。知能検査はほとんど役に立たない。

・どんなタイプの脳障害でも変化は起こる。思考内容の障害はたいてい大脳障害が最も早く反映されて出現する,妄想やパラノイド的な考えである。酒に酔って最初に現れるのは妄想である。多くのアルコール依存症患者は飲酒時のみ妄想を訴えるが,依存症の後期には思考過程障害がみられ,きちんと話せなくなり,聞いている人にも何を言っているかわからなくなる。LSDも少量なら妄想がみられ,大量使用時のみ思考処理障害が出現する。その人の話が妄想かどうかは患者や家族の背景を調査しないとわからない。

・思考内容の障害は思考過程の障害より早く出現する。思考内容障害は子どもではあまりみられない。パラノイド的発想はよくあるが,同級生はみんな敵だとか先生がほかの子よりも自分をひどくいじめるとか,子どもっぽい内容である。成人統合失調症のように,親兄弟や友人に対する憎しみや殺したい気持ちなど奇異な考えを抱くことは稀ではあるがなくはない。子どものころに思考内容障害があり,その後殺人を犯して心神喪失で無罪となった青年には向精神薬による治療は効果なかった。思考内容の障害を明らかにする簡単な検査はないが,本人を注意深く診たり親から情報を得ることで判断可能である。子どもが大きくなればなるほど容易になる。

・思考過程の障害も変わっている。思考のプロセスは論理的連続性があって他者にも理解されやすいが,この言葉の流れを中断されるものはすべて思考過程障害である。思考が早すぎる,遅すぎる,停止する,いい言葉が浮かばず長く中断する,混乱する,他の考えが割り込んでくる,など。そのために考えを表出したり他者とコミュニケーションしたりするのが困難になり,学習にも支障をきたす。思考内容の障害と比較すると思考過程の障害は知能テストの結果に大きく影響する。

・知能テストで知能低下が認められた子どもたちの多くはちっとも遅滞がなく,思考障害のために学べずに遅れがあるように見えているだけだと確信するようになった。治療をすれば正常知能になる。秋にクラスの底辺の成績だった9歳男児ナイアシンアミド(B3)3gとピリドキシン(B6)250mgを摂ったところ,翌春にはクラスのトップになった。未診断の統合失調症のためいつも混乱し知的障害学級に所属していた女子も治療1年で普通高校の上級クラスに戻った。

・知的障害と診断することの治療的意味は乏しい。子どもを病気ではなく障害だと位置づけ,生化学的・栄養学的治療から心理社会学的治療へ,それも無視から強力な特別支援教育や行動変容まで幅広い治療へと移行する。

・重度の脳損傷は神経学的な変化や行動上の変化を起こす。タウビン(? Towbin)氏は胎児期・新生児期の低酸素状態が精神遅滞や麻痺,てんかん,行動障害などの脳機能障害を引き起こすという。身体の中で最も脆弱な中枢神経系は低酸素や物理的損傷から逃れられない。低酸素の度合いや損傷部位によって重症度は変わってくる。新生児期の未熟児が重度の損傷を受けると痙性脳性麻痺が起こる。正期産の新生児では主に脳表面が損傷される。前頭葉損傷では知的能力が落ち,後頭葉では視覚障害がみられる。治癒するとき傷が残り,てんかんの原因になる。妊娠初期には脳の深部が急速に成長するので,この脳部位は低酸素に非常に脆弱である。そのあと大脳皮質が急速に育つため,この部分も低酸素に敏感である。

・タウビン氏がアメリカで1年間に生まれた30万人の未熟児を調査したところ,超未熟児では精神遅滞の発症率が非常に高く,障害の程度は未熟度と相関があった。2500g未満の子の10%はIQが70未満で,その確率は正期産の2倍近い。低酸素状態は必須ではなく,大脳病変の大半は妊娠後期の初めに起こる。これが精神遅滞のある子に周産期合併症があまりみられない理由である。

・低酸素症は脳の呼吸関連酵素系を大きく変化させるため,ビタミンB3依存が形成されるのかもしれない。体内でB3から作られるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドという活性型抗ペラグラ酵素は呼吸関連酵素の中で最重要なもののひとつである。このことが,これほど多くの人が大量のビタミンを必要とする理由の説明となるかもしれない。

・低酸素や先天的な欠陥により脳に解剖学的な(構造上の)損傷がある子もいれば,構造上の損傷はなくてもさまざまな行動障害を呈する子もいる。後者は生化学的病変によるものに違いない。この両者の間のどこかに属する子どもがたくさんいる。ある患者がこの間のどこに位置するのかを正確に判断するのは非常に難しい。大半の子がメガビタミン療法に反応するので,低酸素による脳損傷がある一部の子どもたちでさえも反応可能であることが示唆される。そして,今も残っている低酸素脳障害はもっとビタミンが必要だからであり,ビタミン依存遺伝子が子どもたちの低酸素による脳障害に対する脆弱性を高めており,適切なビタミンをメガ量用いることが生化学的病変を修正するということが示唆される。

・ロッシ氏は,メチル化過剰による脱髄化が脳機能障害の要因ではないかと示唆している。ミエリン(髄鞘)は神経鞘の重要な構成要素である。メチオニンは70%の子どもたちを悪化させ,ナイアシンアミドは50%の子どもたちを改善したというエビデンスがあるが,ナイアシンアミドはメチル基を躱してミエリンが過度に失われないようにするのに対しメチオニンはメチル化を促進する作用がある。多動行動を誘発するその他の要因としては脳炎があり,特にせん妄・重度頭部外傷・脳内石灰化・てんかん・脳アレルギーに合併するものが引き起こしやすい。なので,学習や行動に障害のある子どもたちの最初の検査や診断には身体的・神経学的評価を含めねばならない。脳に損傷のある子どもでも明らかに改善するのだから,すべての器質的思考障害に可能な限り最適な治療を行わなくてはならない。


【ひとりごと】サマリーと言いつつ,話が複雑になってきてもはやほぼ全訳になりつつあるけれど…。 思考障害は「おかしなことを考えてしまうタイプ」と「考えの筋道が遮られるタイプ」に分けられること, 脳に構造上の損傷があったとしてもメガビタミンが有効な可能性が高いこと, ナイアシンアミド(B3)は神経細胞脱髄を防いでくれる(=神経の情報伝導効率を保ってくれる)らしいことが今回のポイントかな。