ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:気分&行動

診断(2) 感覚知覚,思考,気分,行動の機能不全:感覚知覚の機能不全---気分&行動

「Healing Children’s Attention & Behavior Disorders: Complementary Nutritional & Psychological Treatments」。

今回の範囲は、気分と行動です。

いろいろ示唆に富んだ話題がありました…。

≪気分≫ ・気分は抑うつから多幸感までの連続のどこかにあり,適切か不適切かを評価される。通常,気分は状況・考え・できごとに対する反応であるが,気分そのものが現実のできごとに対してその人がどう反応するかを決めている。よい気分のときはユーモアと高い能力で物事に直面できるが,同じ状況でも悪い気分のときはイライラしたり腹を立てたり落ち込んだりしながら対処することになる。

・健康な人に催眠をかけ,トランスから覚めたら落ち込むよう暗示を与え,その後再度トランスから覚めたら幸せな気分になるよう暗示を与えた実験では,被験者は落ち込んでいる理由も幸せな気分の理由もどちらも適切に答えることができたという。自分の気分が状況や周囲の人にどう反応するかを決定づける重要因子であることに気づいている人はほとんどいない。

・子どもの気分は抑うつから気分がよすぎる状態まで容易にすばやく変化しやすいが,後者の気分は稀。希死念慮,悲しみ・イライラ・緊張・動作緩慢など通常の鬱の特徴を示すこともある。何カ月も何年も笑わない子もいる。抑うつはビタミンB3,B6不足でよくみられる症状で,ペラグラの初期症状でもある。子どもに笑顔が戻ることが回復の目安。多幸感は稀だが,多動の子どもが誤ってそう判断されることがしばしばある。多動の子どもは,過覚醒で興奮して多幸状態でも,自分の気分に無頓着。躁病の人が明らかに幸せそうなのにそれを否定するのと似ている。幸せだと多動,抑うつだと低活動になることが多いが,関連性はないので行動と気分を混同してはならない。抑うつの子は過活動にも低活動にもなる。ジャンクフード,特に砂糖たっぷりの飲料のCMでは多動と元気いっぱいなことを同一視しているが,まさにこうした飲料が行動に及ぼす影響を示している。企業はこの関連性に気づいていて,飲料による不適切な行動を好ましいものに転換しているのだ。

≪行動≫ ・行動とは,知覚と思考と気分がその人のパーソナリティと相互作用して到達する頂点。受け身すぎ(低活動)から積極的すぎ(過活動)という活動性の程度と,適切か不適切か,という2軸で評価される。子どもの観察やその子をよく知る大人からの聞き取りで評価する。評価尺度で測ることも。

・行動は心理社会的経験によっても決められるが,同じような環境にあっても子どもたちの行動は違うものだ。暗闇にモンスターが見える子,空想上の友達が見える子など,知覚障害のバラエティはきりがなく,行動に及ぼす影響も幅広い。常に,なぜ異常な行動が生じるのか理解に努めることが重要。

・知覚の障害ではなく,行動の障害で子どもたちは医療につながることに。多くの子は砂糖への渇望が強く,砂糖の多い食事で栄養不足になって砂糖アレルギーを呈している。亜鉛不足も影響しているだろう。どれだけの子どもが甘いものを求めて不法侵入しているだろうか。大きくなるとアルコールを盗んで飲むようになるケースもある。薬物依存も欲求を満たすため盗みに依存する。

・パラノイド思考も行動障害を引き起こす。同級生にいじめられている・嫌われていると考える子は学校に行きたがらず,行かせようとする親や教員を不快に思う。勉強について行くのも難しく,それを求められるとずる休みし,勉強を嫌うようになる。共感性が育たず,他児の感情を無視してさまざまな問題を起こす。これが思考障害が行動に影響を及ぼす一例である。

・気分の異常も行動に影響する。抑うつ的な子どもはうつ病の人のように振る舞い,躁的な子どもは活力が溢れるような行動をとる。数分様子をみただけで診断がつく子もいるが,診察室ではとてもおとなしいケースもある。不安が消えれば異常行動が顕在化するので,情報と目の前の様子が乖離しているときは数回会ってみるとよい。初診だけで「子どもは異常なし,親に問題があるのでは?」と非難されたという親はたくさんいる。

[多動(臨床閾値下ペラグラ)] ・感覚知覚,思考,気分の障害が子どもの成長発達を困難にし,周囲に合わせようと無理するストレスから不登校などの心理社会的手段が用いられることになる。エネルギー不足にもなるが,病気のために過活動になる人もいる。

・多動の程度について,親が子をコントロールしたり子に合わせたりするのに疲弊していれば病的多動であると判断している。受動的な子は周囲を困らせないので問題になるのが遅れる。

・1938年,シュピース氏らは多動や注意障害のある子どもたちのことを「臨床閾値下ペラグラ」として初めて記述した。「疲労,不眠,無感覚,動悸,物忘れ,注意散漫など,ペラグラにはノイローゼと思わせるようなさまざまな症状がある」と。脚注には「ペラグラ症状のある子どもたち75人にあ浮遊感やいらいら,思考が飛ぶなどの症状があって学校や家庭での適応が難しくなっていたが,ニコチン酸の錠剤を飲むことで多くは速やかに改善した」とある。

・50年以上前の実験で,ラットをカロリー欠乏状態にしたら1日に約2.4~11㎞走ったが,カロリーは十分与えながらビタミンB欠乏状態にしたところ約11㎞/日走ったという。ビタミンB欠乏はヒトや犬・猫のようなペットでない限り自然界では滅多に起こらないが,ビタミンBが欠乏すると食べものを探すかのように,それ以上に動物は走り回る。

・これはヒトの多動の秀逸なモデルだ。ビタミンB(主にB3,B6)不足は飢餓状態の反射的な活動増加を引き起こす。多動児は食べものを求めて走り回るが,成人では食べる量が増えるという反応が出る。食べるとビタミンBは摂れるが代償として肥満になるので,緩下剤や嘔吐で対処することになるが,摂ったカロリーに応じたビタミンB群などの栄養が取り込まれる前にしてしまっては無駄な行動となる。多動児を見ると,飢餓状態に備えて遺伝子に組み込まれた唯一の対応策を使ってビタミンBをもっと摂取しようと必死で奮闘している姿が私は思い浮かぶ。

・B3不足であるペラグラの子どもたちは多動になるが,ビタミン治療で改善する。この本で少なくともB3,B6という2種のB群で子どもの多動が著明な改善を示した例をたくさん挙げる。子どもの走り回ったり絶え間なく動き回るような多動は,思春期や成人期にはより大人らしいものへ変化していく。アルコールや薬物なしにはいつも動いて落ち着きなく,緊張してしまうという大人もたくさん診てきた。

・私がDSMの50以上ある診断のどれよりも多動や注意障害などの行動障害を説明してくれると私が思っている臨床閾値下ペラグラについて,グレン・グリーン医師が増幅してくれた。過活動で,ディスレクシアがあって文字がぼやけたり動いたりする子もいて,それはメガネをかけても改善しない。疲労や憂鬱やいらいらがあり,錯覚や幻覚のある子も多い。3分の1には夜尿もある。しかし全員が数日~数週のうちにB3で改善される。典型的なペラグラ症状,胃腸障害や皮膚症状はなく,「ペラグラのないペラグラ」だ。


【ひとりごと】 砂糖たっぷりの清涼飲料水が血糖を大きく変動させて多動を引き起こすこと,あまり知られていないかも…。暑い季節にはスポーツドリンクを積極的に摂りたくなる人も多いと思いますが,電解質を補給したいなら麦茶に塩を少し加えるといった血糖値に影響しない方法を考えたいもの。 初回面接では子どもの本当の姿は観察されないことも少なくないというのは,支援者としては絶対に忘れてはならない指摘。間違っても「この子をおかしいというなんて,お母さんこそおかしいんじゃないですか?」的反応をするなんて言語道断。肝に銘じておきたい。 多動はビタミンB群欠乏を解消するための生物学的努力だと考えるのはとても興味深い。B3とB6の重要性も心に留めておきたいと思った。