ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:診断(4) 行動面、知覚面、生物医科学的な、そして知能の検査…クリプトピロール(KP)検査

火曜日恒例、ひとり読書会。


クリプトピロール(KP)検査

統合失調症研究の過程で、統合失調症にみられる生化学的問題が幻覚を引き起こすストリートドラッグLSD使用時をモデルとして検討できるのではと思い当たった。LSDを使うと、統合失調症ではない人にも統合失調症患者の身体に起きているのと同様の生化学的変化が引き起こされるのではないか、もしそうなら統合失調症患者にみられる異常物質を探す手掛かりになる、と。

・尿を採取してペーパークロマトグラフィーを行うことで統合失調症患者と健常対象者の違いを見つける研究を行った。LSD投与前後の尿成分を比べ、LSDに反応して身体の中で作られた物質を特定し、それがLSDを投与されていない統合失調症患者でも診られるかを確かめた。LSDによって産生された物質をモーヴファクターと命名した。研究に用いた統合失調症患者全員の尿中にモーヴファクターが検出され、統合失調症以外の患者や健常対照群ではひとりも検出されなかった。

・大規模研究でも、非統合失調症では重度のストレス下や統合失調症以外の精神疾患群(うつ病アルコール依存症)ではモーヴファクター検出率は25%以下、急性統合失調症では検出率75%であった。モーヴファクターがみられた人は臨床像も統合失調症患者に類似していて、HODテストのスコアも高く、メガビタミンへの反応や治療予後も似ていた。

・モーヴファクターはLSD代謝産物、クリプトピロール(KP)と同定された。その後の調査で、次のようにKP出現率が異なることが分かった。

・KPの値が高い人たちのほうが高確率で知覚障害・思考障害・不適切行動が多くみられ、低値の人たちでは5%しかみられなかった。KP高値の人はHOD得点も統合失調症と同様に高く、低値の人は非統合失調症と同等の低さだった。実はKP高値の人は未診断の統合失調症だったのだ。

・モーヴファクター同定後、ファイファー博士に倣ってクリプトピロール尿症、ピロール尿症と呼ぶようになった。ファイファー氏はKPが亜鉛とビタミンB6両方と結びついて尿中に排出して欠乏を引き起こすことを発見した。オスモンド医師が考案した簡易な熱量測定テストは、学習や行動の困難を抱える子どもたちが尿中にKPを排出するのを見つけて栄養素を補わねばならない子を発見するのにとても有益だと気付いた。


・尿中のKP測定法とそれを調べる意義

  1. KPの保存料としてビタミンC 500mg錠をひとつ入れたコンテナに尿を集める。
  2. 2mlの尿サンプルを遠心分離し、4mgのクロロホルムを加えて手で振るか攪拌装置を使って2分間混ぜる
  3. 遠心分離後、上澄みをそっと取り出し…

(以下細かい抽出法の説明や注意事項の記載あり)

・KPが存在することは、統合失調症やその他の診断群に該当することを意味するわけではないが、尿中に異常な化学物質があるという意味で共通する人たちを選び出すことができる。KPという、ビタミンB6と亜鉛を同時に欠乏させる物質を作りすぎる人たちである。彼らは臨床的には統合失調症に似ているし、クリプトピロール尿症の子どもたちは化学的な検査で簡単に見つけられ、治療反応性もよいということだ。

ひとりごと

ずっと謎だったKPの話がようやく登場した今回。

でもビタミンB3との関連は語られておらず、残念。
病気そのものを診断する検査法ではないとはいえ、尿中からKPという特定の物質を検出することで、その人の臨床的特徴や治療反応性を知ることができるのはすごいと思った。その結論に達するまでの長い研究過程が細かに紹介されていることも興味深かった。