ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

「運動したら自閉症は治る」のかも…??

マウスといえども、気になる結果

数日前、SNSで見かけた研究論文の記事がとても興味深くて。

Andoh.M et al. Exercise Reverses Behavioral and Synaptic Abnormalities after Maternal Inflammation.Volume 27, Issue 10, 4 June 2019, Pages 2817-2825.e5

東大の研究チームの論文です。
日本語での解説はこちら。

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400116964.pdf

ざっくり言うと、人工的に作り出した自閉症モデルマウスが、たっぷり運動したら普通のマウスとの差がなくなるくらい自閉症症状が軽減した、という研究です。

もう少し詳しく説明

自閉症の病態仮説のひとつに、シナプス神経細胞同士のつながり)の刈り込みがうまくいっていないのではないか、という説があります。シナプスがたくさんあるほうが脳のはたらきがよくなりそうな気もしますが、じつは必要なつながりだけを残してある程度シナプス数が絞り込まれたほうがうまくはたらくようです。果実の摘果みたいなイメージでしょうか。
刈り込み作業はグリア細胞という名前の細胞たちが担当するそうです。

母マウスにウイルスを感染させることで人工的に作り出した自閉症モデルマウスは、生後30日(マウス界ではすでにおとな)時点でコントロール群のマウスと比べて海馬(記憶と関連の深い脳領域)の特定の場所でのシナプスの密度が高いことがわかりました。
刈り込みがうまくできていないということですね。

そして、この自閉症マウスはコントロール群と比べて、初対面マウスへの接近行動が少なく(≒社会性が低い)、ひとりでいるときの毛づくろい行動が長い(≒常同行為が多い)ことも確認されました。

さて、実験です。
自閉症マウスを2グループに分け、運動グループだけを生後30日後からの30日間、隅っこに回し車のあるケージで好きな時に走ることができる環境で過ごさせました。

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すると生後60日後には、運動グループの自閉症マウスはコントロール群と比較してシナプス密度の差がなくなり、運動をさせなかった自閉症マウスはやはり密度が高いままでした。

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自閉症行動を比べても、運動グループは社会性も常同行動もコントロール群と差がなくなり、運動しないグループでは社会性の低さも常同行為の多さもそのまま続いていました。

さらに、自閉症マウスに運動をさせるとき、ミノサイクリン(グリア細胞のはたらきを阻害することが知られている薬)を生後30日後から30日間毎日注射し続けたグループと、ミノサイクリンの代わりに生理食塩水(特別な作用がない)を毎日注射し続けたグループを設定したところ、運動+生理的食塩水グループでみられたシナプス密度の減少と自閉症症状の減少は運動+ミノサイクリングループではみられませんでした。

この結果からわかることとわからないこと

動物実験には「動物にヒトのような心・精神活動があるものか!」という反論がつきものです。
どうしても「ヒトではない生物での話」という限界はつきまといますが、それでもとても面白い結果だなと感じたので詳しく読んでみました。

今回の研究から、

ということが明らかになったということです。

私がとても興味を惹かれたのは、運動をさせたのが生後30-60日だったということ。
この日齢は、マウスでは成年(すでに性成熟期)なのです。

つまり「大人になってから(回し車で走る)運動をしても刈り込みを起こすことができた」ということになります。

ヒトとマウスを同じ土俵で語る失礼を承知で書きますが、私が知っている成人の自閉症スペクトラムの患者さんの中で大人になってからジョギングの習慣を身につけた人全員が週5-6日安定して働けているのは偶然ではない気がしてきました。

もうひとつ、もっと知りたくて気になったのは、この実験を走ること以外の運動で行ったらどうなるんだろうということ。
ヒトで言うなら平均台とかボルダリングとかトンネルくぐりにあたるような、少し複雑な運動企画が要るような運動をこの自閉症マウスにさせたらどんな結果が出るんだろう?
走ったときと同じ領域で刈り込みが起こるのか、別の領域のシナプスが刈り込まれるのか、それとも…?

興味は尽きませんが、こんなに楽しくなれて希望の持てる研究が日本で行われていることも嬉しく感じます。
また新しい知見が得られたら、どんどん公表してほしいです♪