ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

「働けない縛り」から解放されたのはなぜ?

働きたいのに働けないジレンマ

ちょっと前の話ですが、高校を卒業しても仕事に就けないと悩んでいたお子さんとお会いしていました。

進学するつもりはなくて高校を出たら働きたいとは思っていた、でも高校生活で自分に自信が持てなくなった、と。

「何をしてもみんなのようにうまくいかなかった。見た目でバカにされているのを感じていた。だから、整形しないと人の中に入って働ける気がしない」というのが彼女の言い分。

家族にも自分の思いはちゃんと伝えているのですが、もちろん「じゃあ整形費用出してあげるね」なんて話になることもなく。

正直な話、第三者の目から見ても働くことに支障があるような容姿ではまったくない人でしたし。

働くために働くことに?!

お話をお聴きしながらまずは生活上困るような不眠や不安に対処していたのですが、すぐに本人が自発的に筋トレやジョギングを始め、アルバイトの面接をいくつか受け、あっという間にバイトを開始してしまいました。

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いくつかの仕事を経験するうち、自分にとって働きやすい、自信を持って取り組める仕事のタイプがわかってきたよう。
気がつくと、ダブルワークで働くようになりました。

報告を聞いて驚き、彼女に心境の変化を聞いたところ、こんな返事が返ってきました。

「整形はいつかするつもり。でもそれにはお金かかるし、まずはアルバイトでお金を貯めて、整形してから本格的に仕事を探そうと思う」

…なるほど。

自信を持って働くためには、整形するお金を貯めるためにまず働かないといけないけどその自信がない、という逆説にはまりこんでいた彼女でしたが、結局私が何か介入する暇もなく、自分で自分につけた足枷を外してしまったのでした。

彼女の「勝因」は何だったのか?

本音を言うと、なぜ働け始めたのか私にはわかっていないのです。
安心して眠れるよう軽い向精神薬を2ヶ月ほど使いましたが「もう眠れるので」と自分から中止を希望され、それ以来何も処方していないので、薬物療法でよくなったとは思っていません。

働く自信はない、でも貯金したいから「とりあえずアルバイトする」という形で自ら上手にハードルを下げたことがきっかけで自分が働けることを確認できたのが大きかったのかな。

そしてアルバイトは誰かに強要されたものじゃなく自分で見つけてきたものだったというのもよかったかもしれません。
高校を卒業しても働こうとしない彼女を追い立てず、彼女を信じて時間を与えてくれた親御さんの功績もきっと大きいはず。

結局、頭のなかで考えてるだけじゃうまくいかなくて、行動こそが人を変えてくれる、という例を目の前で見せてもらったということなのかな、と思っています。
そのためには、見守る大人があれこれ手出ししすぎない方がいいのかもしれません。
余計なお邪魔をせず、本人の自己回復力を最大限発揮できるような関わり方を意識したいなと思わせてもらったケースでした。