ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

体罰への法規制スタートに思うこと

体罰等によらない子育て

新聞で見掛けて気になっていましたが、子どもへの体罰を禁止する「改正児童虐待防止法」が2020年4月に施行されるのを前に、厚生労働省有識者検討会は2月18日、どんな行為が体罰に当たるかを示した指針をまとめたとのこと。

体罰の定義「子に苦痛や不快感」 厚労省指針、4月運用


体罰等によらない子育ての推進に関する検討会(厚生労働省ホームページ)にも文書がアップロードされています。

すでにいろいろな声があがっているようですが、私も触れずにいられなくて、今日の記事として取り上げさせてもらいました。

「そんなことまで体罰になっちゃうの?」

4月を前に、体罰の具体例として

  1. 注意したが言うことを聞かないので頬をたたく
  2. いたずらしたので長時間正座させる
  3. 友達を殴ってけがをさせたので同じように殴る
  4. 物を盗んだのでお尻をたたく
  5. 宿題をしなかったので夕飯を与えない

といった5例が公表されましたが、それに対して「こんなことまで規制されたら子育てができない!」という声が多くみられるようです。

子への体罰禁止に新指針 「しつけで容認」6割の現実

…そんなにも体罰を用いた躾が容認されていることに、あぁやっぱりと思うと同時に残念な気持ちになってしまいます。
体罰を使う親御さんは、体罰を使えば子どもにうまく躾が入ると思っていらっしゃるのかな。
逆説的ですが、もしそうなら体罰はあっという間に不要になるはずですよね…。

実際には、体罰を使おうが使うまいが、子どもにわかってほしい・できるようになってほしいことを一度や二度や三度で伝えることは難しいわけで、根気よく、諦めず、子どもの発達や準備性をみながら繰り返し伝えていくしかないと私は思っています。
そして、それならば体罰を使わないほうがいい、と心の底から思うわけです。

体罰を使わないほうがいいのはなぜ? に答えてみる

1. 罰は何であれ、強くしていかないと効果がなくなる

体罰に限らずペナルティは同じ強さで繰り返すと慣れが生じて効果が薄れてしまうので、罰を与える側がどんどんエスカレートせざるを得なくなります。
軽く頭をこづく程度のつもりが、平手打ちや棒で殴るなんてことになっていくのが必然だとしたら、初めから体罰に頼らないほうがいいですよね。

2. 身体的虐待や暴力は、子どもの脳に長期にわたって損傷を及ぼす

揺さぶられっ子症候群のように脳に直接物理的な損傷を与えるような暴力でなくても、体罰などの暴力は子供の脳神経細胞の発達を妨げることが知られています。
もっと賢明な子に育てたくて体罰に頼っていると、むしろ脳の働きが悪くなってしまうとしたら…? やっぱり体罰を用いるのは誤った戦略のように思えます。

このあたりに関する医学論文もさまざま書かれていますが、福井大学教授で小児神経科医の友田明美先生がたくさんご著書を出しておられます。

子どもの脳を傷つける親たち (NHK出版新書 523)

子どもの脳を傷つける親たち (NHK出版新書 523)

  • 作者:友田 明美
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2017/08/08
  • メディア: 新書

ちょっと脱線しますが、身体的暴力だけでなく、言葉の暴力もまた子どもの脳の発達に支障を及ぼしてしまうこともわかっています。
体罰は我慢しよう、でもせめてガツンとキツく叱り飛ばさないと!!」と思っていらっしゃる親御さんがいらしたら、ぜひそれもやめておかれることをおすすめします。

3. 体罰は子どもとの信頼関係を壊す

親から暴力(暴言も、ですが)を受けている子どもは、親のことを心地よい・好ましい存在だと思えなくなります。そうすると、親からの大切な助言やメッセージが子どもに伝わらなくなってしまうのです。これは脳外科医でトビウオJAPANのメンタルトレーニングにも携わられた林成之先生のご著書でも「A10神経群」として紹介されています。


久しぶりに熱く語ってしまいましたが、

  • 躾に体罰が必要という前提がなくなってほしい
  • 体罰を使いたくなった親御さんには、自分の余裕がなくなっていることに気づいて早めに誰かにSOSを出していただきたい
  • 体罰禁止を法制化するなら、親子の問題で相談できる公的な体制・人員配置をもっと充実させてもらえたらいいな(と国に期待)

というのが今の私の思いです。

子どもたちに皺寄せがいかないことを切に願っています!