ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:治療(3):ビタミンと薬物療法(ビタミンB3・後半)

火曜日恒例、ひとり読書会。
今日はビタミンB3(後半)です。

読んでいるのは引き続きこちらの本。

ビタミンB3(後半)

・もともとの実験の結果(※ナイアシンの肝毒性:前回の記事参照)は再現されなかったにもかかわらず、ビタミンB3の毒性に対する恐れは絶えなかった。肝機能検査で何らかの異常がみられることが肝毒性ありという意見を支持した。しかしナイアシンを中止すると、肝障害の修復にかかる時間よりずっと早く5日以内に検査結果が正常化する。さらに、ナイアシンを長期服用している患者ではどんな検査でも臨床所見としても肝障害は認められない。パーソンズJr.博士の主要なナイアシン研究では、肝毒性は見られなかった。最もよい証拠は、その包括的研究において死亡率が低く長寿だったのはナイアシンを飲んでいる患者のみだったという事実である。この優れた副次的効果はナイアシン中断後も長く続いた。

・それでも、ナイアシンで黄疸をきたす患者を数名見たことがある。閉塞性黄疸で、ナイアシンをやめると速やかに改善する。このうち何人かはナイアシンを再開しても黄疸は再発しなかった。私の概算では、1000人のうちひとりが黄疸を呈する。あまりにも低頻度であり、ナイアシン以外の要因で黄疸を呈することもあるため因果関係を明らかにするのは困難だ。私がナイアシン投与を開始する患者の大半は統合失調症とアルコール依存である。統合失調症アルコール依存症をほとんど診ていないサスカチュワンのある医師は、600人以上の患者を治療し一人も黄疸を経験していないという。統合失調症とアルコール依存はどんな場合にも黄疸を呈しやすい人たちである。ひどくビタミンB3を必要としている7歳児が、肝機能検査は正常なのにナイアシンでもナイアシンアミドでも数日で黄色くなってしまう。イノシトールに結合させたナイアシンでは、5年間観察したが黄色くなることはなかった。私はまだこの事実に困惑している。肝機能検査は定期的に実施することを勧める。私は検査は必須だと思っている。黄疸がみられたら、十分な期間ビタミンをやめることだ。

ナイアシンには様々な作用があるが、ナイアシンアミドは耐糖能曲線をみると炭水化物の代謝には影響を与えていない。私が調べた患者の3分の1はグルコース耐性が上がり、3分の1は不変で、残りの3分の1は低下していた。このような理由から、ナイアシンを最低でも5日間中止していなければ耐糖能検査を行うべきではない。糖尿病患者は自分のインシュリン要求の増減に対応しなくてはならないが、その量の調節は僅かである。糖尿病性の血管障害の進行を防ぐ効果があるので、糖尿病患者にはナイアシンを投与することを私は薦める。ナイアシン中性脂肪と総コレステロールを低下させ、HDLを上昇させるのだ。ナイアシンアミドは遺伝的に若年性糖尿病になりやすい子どもたちが糖尿病を発生する頻度を低下させる。

ナイアシンは血中の尿酸値をわずかに上昇させるが、痛風のリスクを高めることはなく、痛風患者にもナイアシンは投与できる。私は数名の痛風患者に他の治療目的でナイアシンを投与している。ある患者は痛風と関節炎の両方に罹患している。ナイアシンで関節炎はコントロールできたが、ビタミンB3開始以降も痛風発作は同じ頻度で起きている。血中尿酸値は寿命と相関がある。尿酸は有効な抗酸化物質で、フリーラジカルのスカベンジャーになる。アスコルビン酸(ビタミンC)と同等の効果を持つ。ヒトは尿酸を分解することができない。おそらく、私たちが体内で作ることのできないアスコルビン酸の代わりを部分的に果たしているだろう。つまりナイアシンの有益な作用の一部は、尿酸値をわずかに上昇させることにも由来するだろう。

ナイアシン有機酸のひとつなので、消化性潰瘍を悪化させるのではないかと恐れられてきた。しかしとても弱い酸で、胃に入ってもほとんどいの酸性度には影響しない。ある研究では、ナイアシンは自身が放出する以上に水素イオンと結合する-つまり酸性度をわずかに下げることが示された。しかしナイアシンヒスタミンを放出され、一部の患者ではヒスタミンが胃酸分泌を大きく上昇させる。消化性潰瘍のある患者の多くではナイアシンは痛みの問題と無関係でなだけでなく潰瘍の治癒を促進している。ナイアシンの最も悪い点はその名前、ニコチン酸である。この「酸」という言葉が患者を恐れさせる。

・特に熱帯気候では、稀に足首に浮腫をきたす成人がいる。良性の、朝になると消失する浮腫である。これはナイアシン量を減らせば解決する。過去2年間以上、ナイアシン1gに対し5㎎の葉酸を加えるとこの末梢性浮腫を解消するのにとても役立てている。とても稀だが、フラッシュと痒みがあまりに強く耐えられないことがある。ある患者は全身が紅潮し、ナイアシンをやめるまでおさまらなかった。紅潮を治すには抗ヒスタミン薬が有効であり、発生も抑えることができる。ときにナイアシンで皮膚乾燥が起こる。

サリドマイド事件も未だ忘れられない。多くの女性が妊娠中に服用した薬が及ぼしかねない作用を心配し、多くの医師が妊婦たちにビタミンを摂ると胎児に害があるかもしれないと今も警告し続けている。もう何年もビタミンB3を飲んでいる私の患者たちの多くが、妊娠中は飲むのをやめねばならないと医師に言われて電話してくる。そして自分自身が病気になるリスクを抱えることになる。だが、赤ちゃんがこれらのビタミンによって害を受けるというエビデンスはひとつもない。逆に、私はナイアシンを5000人以上の患者に与えているが、障害児を生んだ女性はひとりも思い出せない。子どもたちは健康である。私の患者の大半は統合失調症なので、障害児を生む傾向は強い(非統合失調症では1%、統合失調症では3%)が、ビタミンが障害児の出生を防いでいる可能性がある。ビタミンが母親の状態を改善したりよい状態を維持したりするのを助けるとしたら、同じ遺伝子を持つ赤ちゃんにも同様の効果を与えるだろうし、これは驚くに当たらない。さらに、ビタミンB3はサリドマイドの催奇形性から動物を保護することが示されている。サリドマイドを与えられた女性が大量のビタミンB3を摂取していれば、健常な子どもが生まれたかもしれないのだ。私は妊娠がビタミンB3禁忌だとは考えていない。逆にビタミンB3を含むB群をすべての妊婦が摂るべきだと考えている。

・毒性について考えるベストな方法は、ある化合物の毒性と治療用に販売されている薬剤の毒性とを比較することだ。統合失調症の治療薬として推奨されている最も毒性の強い薬のひとつクロザピンをナイアシンと比較してみた。クロザピンは鳴り物入りで宣伝され、私たちの仲間の傑出した統合失調症研究者である精神科医もその優れた治療効果を広める役目を果たした。彼らは一貫してビタミンB3を使うことは無視していた。この比較を行うにあたり、調剤・専門大要(Compendium of Pharmaceuticals and Specialties 註:カナダ製薬協会の医薬品集らしいです)第30版(1995)内に記述された文章の行数を用いた。

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どちらの化合物が危険かは明らかである。

ひとりごと

ナイアシンになすりつけられた冤罪への反論、糖尿病とナイアシンの関係、サリドマイドの催奇形性とナイアシンの話など、気になる話題がいっぱいでした。
ビタミンと治療薬について、同じ書籍の中のメリットとデメリットの記載量の比で比較するというアイデアはなかなか斬新ですね!