発達障害の誤診とは? そして発達障害は「治る」のか?
「子どもの発達障害誤診の危機」を読みました
榊原洋一先生の新刊「子どもの発達障害誤診の危機」を先日読み終えました。
- 作者:洋一, 榊原
- 発売日: 2020/02/13
- メディア: 新書
ちょっぴり扇動的なタイトル、ついつい手に取りたくなりますね。
表紙の「2割が誤診?!」ということばも刺激的です。
過剰診断・過剰検査・過剰治療
榊原先生が心配なさる、過剰な診断・検査・治療についての記述。
うんうん、あるある、と頷きながら読みました。
本の中でも紹介されていた「厚生労働省注意欠陥多動性障害診断・治療ガイドライン」のフローチャート。恥ずかしながら私はこのチャートどおりに「必須」の検査をしたことはない、とここで告白させていただきたいと思います。
なにしろうちの職場はいわゆる病院ではないので、MRIやCTはおろか脳波検査ですら自前では実施できません。大病院ならともかく、一般的なクリニックでもほぼ同じ状況ではないでしょうか。
診断に対する(子どもの)精神科医ひとりひとりのスタンスにもかかわってくる話だと思うのですが、患者さんの診療のなかで「診断」の占めるウェイトがどれほど大きいのかは非常に個人差があるのではないかと思います。
そりゃ、器質因(脳損傷や脳腫瘍など、画像で見て明らかにわかるような構造上の変化)を除外することが必要な場合もあるのはとても納得できるのですが、全員が全員、機械的に「必須」というのは患者さんやご家族の身体的・時間的・金銭的負担が大きすぎるように感じます。
そして、診断をそこまで厳密にする前に、そのお子さんやご家族が今困っておられることへの支援を早く始めたほうがよいのでは…と思わずにいられません。
ものすごーく本音を言えば、たとえ発達障害特性があるとしても、診断がつく・つかないよりもそのお子さんが何に困難を抱えているかのほうがずっと大事だと思っていますし、そのお子さんを支援する上で診断があったほうがうまくいくのであれば、そのとき診断について検討すればいいんじゃないのかな、と。
発達障害は「治る」のか?
榊原先生が本の中で紹介してくださっている、「一度ついた診断名は変えられない」と前医で断られたお子さんのエピソードのことが個人的にはとても心に残りました。
スペクトラム概念の登場によって診断基準を満たさなくても“誤って”診断がついてしまう子が増えたのではないかと危惧されている一方で、このお子さんについてはそういう過剰診断ケースではないと判断されていて。
その上で先生は、このお子さんは「今は定型発達=自閉症スペクトラム障害の特徴はみられない」と判断なさったとのこと。
私は、自閉症スペクトラム障害は治らない、という常識が必ずしも正しくないと考えます(P.172)
と本文中でも明言なさっています。
榊原先生がここで引用しておられる、バロン・コーエン博士の「後で診断名を取り消すことができるか?」はこちらの本の中の一節。
Autism and Asperger Syndrome (The Facts)
- 作者:Baron-Cohen, Simon
- 発売日: 2008/09/15
- メディア: ペーパーバック
Google Booksで中身をチラッと覗くことができました。
一部をざっくり訳すと「診断を受けた人は必ずしも生涯にわたって診断を必要とするわけではない。診断はその人が困難を抱えて、支援や援助を受けるための診断を必要としたときに、その特定の瞬間を切り取ってつけられるものである。」と書かれています。
そして「自閉症特性と十分うまく付き合っていてもはや日々の生活が妨害されていないことが再アセスメントにより明らかになったら、臨床家は診断が外れることのメリットとデメリットについて本人と話し合う必要がある」と。
…あぁ、2008年の時点であのバロン・コーエン博士がこんなことを書籍に書いていらしたとは!!
やはり診断を必要としなくなった人から診断が外れることはあるし、外す判断をしてOKということなんだな、と安心しました。
さまざまな切り口から発達障害の診断をめぐっていろいろ考えさせられる、興味深い1冊でした。
気になる方は、ぜひぜひ読んでみてくださいね♪