ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

歯切れの悪い卒業報告:彼女に何が起こったか?【後編】

卒業文集用作文の波紋

前回の記事は、なぜか浮かない表情の親子のお話。

今日はこの後編です。

私に作文を見せてくださったあと、「お母さんはあなたの夢は素晴らしいと思うし、応援してる。でも先生とわざわざ喧嘩したいわけじゃないし、たぶん先生はお金儲けの話が好きじゃないんだろうから、作文からそこは削除してみる?」と親子で話し、書き直して提出したとのことでした。

今回は再提出不要。

それはよかったのですが、次の事件が卒業式で起こるとは…。

卒業式で省略されなかったもの

各校で列席者人数を絞り、内容も短縮されたり割愛されたりとコンパクトになった卒業式。

その中で削られなかったのが、校長先生の祝辞。

校長先生は壇上からこう仰ったのだそうです。

「卒業文集では、君たちに将来の夢を書いてもらった。それは、夢を持って大人になってほしいから。ただ、お金を儲けることを目指してはいけない。人のため、世の中のために尽す人になってほしい」

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Mちゃんは私に言いました。
「校長先生はこの話のあいだずっと私の方を見て喋ってて…きっと私の作文を読んだんじゃないかな。それか、担任の先生が『私のクラスのMがこんなこと書いたんです』って校長先生にわざわざ言ったのかも」と。

もちろん、同じ会場でこの祝辞を聞いていらしたお母さんも「まさか校長先生までそんなことをわざわざ祝辞でおっしゃるとは…」と驚かれたそうです。

ちょっと待って! お金儲けはそんなにいけないこと?

この話をお聞きして、あぁこれが「お金は汚い」という学校教育なのか…と思い知らされたのでした。

文集は一生残るものだからその内容に担任がセンシティブになるのはわからなくはないのです(それでも、そのときの素直な気持ちをそのまま書かせてもらえる方が子どもは幸せなんじゃないか、とは思います)。

でも、校長先生が祝辞を通じてまでも子どもたちに伝えたいメッセージが「お金儲けは悪」「お金は汚い」だという現実。

どうしてダメなんですか? と尋ねてみたくなります。

そりゃ、詐欺をはたらいたり窃盗や強盗に走るのは絶対よくないこと。
でも、自分の提供するサービスで誰かに喜んでもらってその対価としてお金を得ることの何がいけないというのでしょうか。

いっぱい稼いで、家族や誰かの幸せのために使えばいいんじゃないですか?
スポーツ選手や俳優さんが被災地支援で寄付なさったというニュースはちょくちょく報道されますし、私程度の収入でももちろんニュースになるような金額には到底及ばないけど子どもの学習支援や貧困支援に取り組む団体さんなどに定期的に寄付してますよ?

診察室でそんな話をするうちに「わかった。やっぱり私、いっぱい稼いでみんなを幸せにする!」と明るい表情になってくれたMちゃん。うん、よかった!

我が子含め、お金を儲けることへのネガティブイメージに染まりそうな子どもたちには「学校で習うお金の話を鵜呑みにしなくていいよ」と伝えてあげたいな…と密かに思っています。