ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

子どもの注意や行動の障害を治す:診断(1) 白痴,軽愚,痴愚,ADD(注意欠如障害),その他不適切な名前

「Healing Children’s Attention & Behavior Disorders: Complementary Nutritional & Psychological Treatments」

今回からようやく診断の章に入りました。 先は長い!! でも少しずつ進んでいきましょう♪

診断(1) 白痴,軽愚,痴愚,ADD(注意欠如障害),その他不適切な名前

・知的機能が標準を下回るとき,以前は「白痴」と呼ばれたことがあった。知能検査の登場によりIQの数値が白痴・痴愚・軽愚など診断に用いられるようになった。19世紀は知的な低さのある人たちを施設入所させる時代,20世紀は脱施設化の時代であった。

・精神科領域では世の動きにつれて呼称変更が起こり,軽愚と呼ばれていたものは微細脳障害,後に微細脳機能障害と呼ばれるようになった。軽愚なら適切な教育で対応可能なイメージがあるが,脳の障害となるとたとえ「微細」であってもどうすればいいのかわからない印象。

・たまたま症状のひとつの「多動」という用語が登場し,「脳」という言葉は診断名から消えた。原因そのものに作用するわけではないが,症状をターゲットとしたリタリンなどの薬物療法で治療可能な対象となった。リタリンは前思春期の多動症状に効くが,食欲低下による成長障害や依存症などの副作用もみられた。シドニー・ウォーカー医師は「リタリンには長期的な好影響はない」と述べており,アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)で診断された多動児に熱心にリタリンで治療する風潮を批判した。

アメリカ精神医学会の診断マニュアル(DSM)には発達障害の多様な診断名が数十種類に及んで作成された。ポーラ・カプラン氏はこれらのカテゴリーの科学的基盤を疑問視し,掲載する診断を決める過程での政治的不透明さや診断基準の信頼性の低さを指摘した。筆者としては,診断が治療選択や治療結果と結びついていないことを批判したい。食事・栄養・望ましい社会的環境・学習環境の判断材料にもなっていない。

・バーナード・リムランド医師も診断の複数の医師が同じ患者たちを診断したときの差を取り上げ,診断の無意味さを説いた。筆者としても,子どもをただ無益に分類するだけになるのは避けたい。どんな診断の定義も記述も子どもを正確に描写することはできないし,治療にも役立たない。


【注】 ・一部差別用語も含まれているが,当時使われた歴史的用語としてそのまま記載した。 ・現在,リタリン多動症ADHD)の治療に用いてはいけないことになっている。

【ひとりごと】「軽愚なら教育可能,脳障害は手が出せない,多動なら薬物療法可能」という呼称と治しやすさ・治しにくさのイメージの連動が,発達障害が神経発達障害に名称変更になったことと結びつく感じがして興味深かった。診断の曖昧さ,診断と治療の関連のなさなどの問題点の指摘もいちいち頷きたくなるなぁ…。