ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

ADHDの正体が、どんどんわからなくなる…

ADHDの正体』を読み進める…

とにかく興味深くて、じっくり腰を据えて読んでいます。

第二章は、大人のADHDについて。
ニュージーランド、ブラジル、イギリスなどとにかく世界各国の研究で、小児期にADHDだった子は大きくなるとADHDじゃなくなっているのに、小児期にADHDではなかった人が成人期にADHDらしい症状を呈することがあると示されている、という話でした。

あれ?
小児期から成人期に持ち越すからメチルフェニデートを成人にも出せるようにしたんでしたよね…?

第三章 矛盾だらけの「ADHD

この章がまた読み応えがある!!
ADHDの歴史を振り返ることができ、その矛盾や謎の挿げ替えを私は初めて知ることとなりました…。

以下、本文の要約です。

1920年頃流行したウイルス性脳炎の影響でてんかん発作や麻痺知的障害などが見られた。農園の他外傷などの原因でも同様な状態が起きることもあり、これらをあわせて1930年代から「微細脳損傷」「微細脳機能不全」などと呼ばれるようになった。1952年、DSM-Iに微細脳機能障害が採用されたが、脳炎や外傷の後遺症のことであり、現在の ADHD の定義とは一致しない。

・戦後のベビーブームで学校は子ども達で溢れ、経済成長に伴い新しい産業の担い手のニーズが高まり、学業成績が非常に重視される空気に。その中で授業に集中できず周囲の迷惑になる子は「多動症」と説明され、投薬薬で静座可能になると示されたことは希望ではあった。だがこれは社会の変化が学業に適さない子を障害者に分類し始めたとも言える。

・教育的な努力で対処することに限界が感じ始めていた教師たちも、次第に医学的な救済手段にすがり始めた。それをさらに推し進めたのはスクールカウンセラー。彼らの重要な役割のひとつは、多動症の子どもを見つけ医療機関への受診を勧めることだった。

多動症にはメチルフェニデートリタリン)が有効で、時代のニーズに応えて1960年より多動症への治療に使われるようになった。
1968年のDSM-IIで「小児期の多動反応」が採用された。

・1960年代から70年代アメリカ精神医学会でそれまで優勢だった精神分析に変わって生物学的精神医学が台頭。その背景には抗精神病薬クロルプロマジンの登場や多動症に対するメチルフェニデート治療の有効性などがあった。精神分析では、多動症児の親は子どもの養育に関して責められがちだったが、生物学的精神医学は親の育て方の問題ではないとはっきり宣言した。

・1980年に出たDSM-IIIでは「多動性障害」だった概念が、1987年のDSM-III-Rでは「注意欠如多動性障害 (ADHD)」に変更された。

・1943年に初めて「自閉症」が報告された。精神分析の影響下で養育要因が重視されたが、やがて遺伝などの影響が強いことが裏付けられ生まれ持った要因によって起きる神経発達の障害として理解されるようになった。1980年代に知的障害や学習障害などとともに発達障害と総称されるようになった。
遺伝要因などの先天的要因を重視する「発達障害」という概念は親を罪悪感で苦しめることもなく受け入れられやすかったため医療や教育の現場に急速に浸透していく。

・しかし遺伝性疾患ではあり得ないことだが ADHD と診断される児童の数は急増し、薬物療法を受ける児童数も激増していく。メチルフェニデートが処方される多動症のケースは1987年から2011年の25年間に約10倍に増加した。残念ながら薬物療法の爆発的な普及が中長期的に見て事態を改善しているようには見えない。

・急増した理由の可能性として考えられるのは、診断基準が緩んだこと、多くの医師が積極的に診断するようになったこと、診断基準に該当する児童数が実際に増えていること。
社会経済的な複数の層に分けて検討すると ADHD が実質レベルで増加しているだけでなく社会経済的に不利な環境が ADHD 増加に拍車をかけていることを示している。この結果は ADHD が遺伝要因の強い疾患であることと矛盾しないだろうか。
もう一つ説明がつかないことは同じ発達障害である学習障害や知的障害は横ばいのままなのに ADHD だけ異常なペースで増えていることだ。

・以上のようにADHDという概念の素性はかなり混沌としている。様々な矛盾を孕んだまま、拡散テンソル画像(DTI)による脳画像研究や遺伝子研究が行われているが、結果の一貫性は乏しく、むしろ ADHD は非常に多様なものの寄せ集めであることが明確になってきた。

・双生児研究とあわせて卵子提供や出生直後に養子になったケースを検討したところ、実の母親とは全く無関係で、育ての母親の ADHD 症状とだけ統計学的に有意な相関を認めた。この事実から親の遺伝的影響と見なされているから入る部分が実は特性を持つ親に育てられることによる環境因である可能性を示している。

ADHDの症状と、反抗や攻撃など社会生活に深刻な影響を及ぼす行動上の問題の深刻さは必ずしも一致しない。

…ええっ? えええっ?!

診断名とその定義の変遷にビックリ

今のようにADHDが定義されて、大人も子どもも薬物療法を受ける時代に至るまでにこんな歴史があったなんて衝撃でした。

大人への処方にはますます慎重にならねばと気が引き締まると同時に、じゃあ大人のADHDって何なの?という疑問も湧き上がるわけで。

続きをまたハラハラしながら読んでみようと思います。