手帳返納目前!? 地道なシンデレラストーリー。
ひきこもりの青年、診察に来る。
小学校で不登校が始まり、その後もほとんど登校できないまま中学を卒業してしまったお子さん。
家族のサポートもそれほど手厚くはない中、ほぼひきこもり状態で初診し、その後もひとりで定期的に診察に来て話をしてくれていました。
何しろ学校に長く通っていないし、家庭学習ができるような環境が整っているわけでもなかったので、文章を書くことや漢字の読み書きは苦手だし、買い物に必要な計算以外の抽象的な数学もほとんど習ったことがない状況。
それでも、仕事ができるようになりたい、家族以外の人と一緒に活動する場に出ていきたい、と積極的な気持ちはいつもみせてくれていました。
まずは障害者就労支援施設へ
人と関わることに少し自信がついてきた頃、「手帳を取って、障害者就労支援施設へ通いたい」と本人が希望して、就労移行支援を利用させてもらうことになりました。
彼のすごいところは、うまくいかなくてもそこで凹まず、教えてもらってまたがんばれるところ。
いつも明るくて前向きなので、施設でもあたたかく指導してもらってどんどんできることが増え、自信をつけていきました。
しかし。
「2年間はここでがんばる!」と言っていた彼が、半年くらい経ったある日、診察室で突然こう言いました。
「今からアルバイトの面接に行くんですけど、この服でいいですかね?」
…はい?
移行支援の人といつの間にそんな話してたの?
「いや、まだ言ってないです。面接で決まったら言おうと思って」
...絶句。
結局即採用が決まり、新たな一歩を踏み出すことに。もちろん障害者枠ではありません。
電光石火の卒業で(あ、もちろん私からも移行支援さんには重々お礼をお伝えしました)、先日のケースのように施設に囲いこまれる暇もなかったですね…。
アルバイトはきわめて順調♪
彼の勤務先は某ファストフード店。
バックヤード業務をひとつずつ教わるようなのですが、私の知らない裏方の大変さをいろいろ詳しく教えてもらって、覚えることの膨大さに私の方がクラクラ。
それでも持ち前のガッツでどんどん習得していき、その日のシフト次第でバックヤードのどんなポジションでもこなせるようになったそう。
そして、ついに。
「そろそろカウンターに立ってみない?」と上司に声を掛けられ、先日初めてレジの使い方を練習させてもらったのだと教えてくれました。
そのレジ操作の複雑さを聞いて、また私の頭がクラクラ(笑)。
でもきっと、彼ならすぐにわからないことを教えてもらって解決しながらマスターしてしまうのでしょうね。
「ずっとこの仕事を続けるとは思ってないけど、今はもう手帳がなくても転職できると思う。バイトを続けながら将来のことを考えたい」と手帳の更新はしない意思を話してくれました。
力のある人が相応しい環境に出会うと、本当にぐんぐん伸びていくんだな…とお会いする度に感心させられます。
彼の柔軟性や吸収力を見習って、私ももっともっと成長したいものです。