ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

「まるで神経発達障害みたいな状態」をどう扱えばいいのか。

少し間が空きましたが…

ちょっと久しぶりですが、興味津々のこちらの本にまた戻ってきました。

今日は第六章です。これまでのレビュー投稿はこちら。

今日はコンパクトな章なので、ざくざくと進みます。

第六章「覆った定説」

ASDに関しては、1999年にラターらが養育要因によって自閉症そっくりの状態を呈する「疑似自閉症」を報告。日本では杉山登志郎先生が、虐待ケースの24%にASDが見られたと報告。

ADHDに関する養子研究では、施設で暮らした期間が6ヵ月未満と6ヵ月以上のグループに分けて ADHD の診断基準に該当する人の割合を調べたら、約4年遅れて ADHD 兆候が現れることが分かった。

・また家庭崩壊や虐待により保護を受けた子どもたちの約3割にASD が見られ、その7割に ADHD が合併していた。非常に高い合併率。

・その他の研究からも、虐待など養育環境の問題が成人期 ADHD と考えられる状態の少なくとも一因となっていることが示されている。

・社会全体で見ても ADHDASD の有病率は増加が目立っているのに学習障害や知的障害は増えていないという事実は、増加のかなりの部分は本来の発達障害というよりも不利な養育環境などによる症状、言い換えれば疑似発達障害に伴うものだということを示しているのではないのか。

・これはただ悲嘆すべきことではなく、養育要因によって起きた自閉症は環境が整い安定した養育者との関係が育まれると通常の自閉症なら起こりえない回復が起きることをラターたちの研究が示している。

・養育者が機能しないことによって起きる障害を愛着障害と呼ぶが、これは例外的な子どもにだけ起きることではなく、豊かな家庭で何不自由なく育ったはずの人でもこのような問題を抱えやすくなっている。

その事実は知っていたけれど。

被虐待などの養育環境がASDADHD類似の状態を作り出すというのは知っていたけれど、DSMの基準を満たすほどはっきりと特性が現れるとまでは知りませんでした。

養育環境によって神経発達障害的な症状がみられた場合、それは真の神経発達障害と扱わないのだとしたら、たとえば手帳申請の診断名としてASDADHDを使ってはならないのだろうか、とか、養育環境が厳しいと本当に幼少期にASDADHDの特性があったかどうかは確認のしようがないのではないか、とか細かいことが気になってきます。

個人的は、今の症状が診断基準を満たすほど強くて今困っているのであれば、ASDADHDの診断名を使って手帳を申請してもいいのではないかと思ったり。

養育環境の影響を強く受けている神経発達障害的症状は安定した養育環境が得られれば比較的速やかに改善するというのは、たしかに臨床現場での感覚と一致します。治療や支援が必要な期間、その「診断名」を外向きにどう扱うかというところだけ自分のなかでひっかかっている感じです。もちろん愛着障害としてもよいとも思うのですが、ご本人にとって特性理解につながる診断名ではないのかも、という違和感があるせいだと思います。

本来の趣旨と離れつつあるので、今日はこのあたりで締めておきます。