ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

「知的障害は治りますか?」を読んでいろいろ思い出したこと。

「知的障害は治りますか?」、ようやく読了。

最近、読書時間がうまく確保できなくなっていますが、花風社さんの「知的障害は治りますか?」をやっと読み終えました。

知的障害は治りますか?

知的障害は治りますか?

  • 作者:愛甲修子
  • 出版社/メーカー: 花風社
  • 発売日: 2020/02/18
  • メディア: 単行本

これまで、知的障害を伴わない発達障害のケースなど、成長につれて精神保健福祉手帳が不要になった人にはたくさんお会いしてきました。

そして、療育手帳(と当地では呼びますが、知的障害児・者のための手帳)が要らなくなった人も数は多くないですが数名お会いしたことがあるので(そもそも職場の特性上、これまでお会いする機会自体が少なかったのもありますが)、やっぱり「診断が外れる」「特別な公的支援を頼る必要がなくなる」という意味で「治る」ことはあるんだな、とは思っていました。

人は誰でも、成長・発達していく力を持っているってことなんだろうなぁ…。

主体性を持てると、成長する!

「治ること、あるよね」という前提で読み始めたのでPART1は「うんうん、そうそう」と読み進めましたが、いちばん心に残ったキーワードは「主体性」。
親子で料理をすることに関して、「まず何を食べたいか決めるところからもう実は主体性の発露になっています」という愛甲さんの言葉にとても頷いてしまいました。
いろんな食べものを思い浮かべること、その中から自分の食べたいものを選択すること。たったそれだけのことでもとても頭を使いますし、「選びとる」行為は能動的ですよね。

ふと、息子が小さかったころのことを思い出しました。
2-3歳の頃、祖父母宅で夕飯を食べる日には祖母がたいてい2種類の果物を用意してくれていて、食後は息子に「梨とブドウ、どっちがいい?」となど聞いてくれるのが常でした。もちろんどちらも息子の好きな果物。いつも彼は嬉々として選んでいましたっけ。
祖母のもてなしは、息子の主体性を育てるのに役立ってくれたのかもしれないなぁ…と改めて思います。
料理を作れない年齢であっても、メニュー選びに限らず、ボール遊びかブランコか選んだり、読み聞かせの絵本を選んだりする機会を作ることで、家族が子どもたちに自分の意思で選ぶ経験を積ませてあげることはできそうですね。

相手の好奇心にとことんつきあうこと

PART2で印象に残ったキーワードは、「相手の好奇心にとことんつきあう」。
不登校のお子さんが持参した好きなCDの音楽を愛甲さんが一緒に聴くうちに不登校が改善したというエピソード。
「そんなことで?」と思うようなちょっとした関わりが本人に大きな影響を及ぼす力になること、確かによく経験します。

ひきこもりの青年たちと出会うとき、ご家族との関係が穏やかで良好なケースと、ご家族とちょっぴりぎこちない関係のケースがあるように感じるのですが、前者の多くは本人の趣味やこだわりのある興味の対象に関して親御さんが比較的肯定的というか、承認してくださっている印象があります。
仮面ライダー好きでも、ビートルズ好きでも、声優好きでも、戦闘機好きでも。

親御さんの関心があってもなくても、興味の対象について初診まもなくから私に対して熱く語ってくれる青年もいて。
ある青年は「ジョジョの奇妙な冒険」のことを単行本を持ち込んで30分ほど語る診察を2度繰り返し、その後みるみるうちにひきこもり生活を終わらせてしまいました。

知的障害があってもなくても、ジョジョを語ることは彼が自信を取り戻すための作業として必要としていたんだろうな、とこの本を読んで改めて思います。

日頃あまり知的障害の人とお会いすることがなく、知的障害のケースに絞った考察は広がりませんが、人の成長を手助けするコツとして得るもののとても多い1冊でした。

それから、これからの自分の課題として「愛着」についてもっと学びたくなったことも感謝したいです。
愛甲さんのこちらの本も再読せねば!

愛着障害は治りますか?: 自分らしさの発達を促す (花風社)

愛着障害は治りますか?: 自分らしさの発達を促す (花風社)

  • 作者:愛甲修子
  • 出版社/メーカー: 花風社
  • 発売日: 2018/02/27
  • メディア: Kindle