ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

原始反射の動きを真似た運動がことばの発達に効果的だった!

原始反射と発達についてもっといろいろ知りたくてさまざまな情報に当たってみるのですが,なかなか都合よく知りたいことに応えてくれるものには出会えません。

nao-chun.hatenablog.jp

専門書はよくも悪くも縦割り…反射に関する本,ことばの発達に関する本,運動の発達に関する本,など…とても詳しいけれど,領域間のまたがりは少なくて。それぞれの専門家がご自分の専門領域について書いてらっしゃるんだから,当然といえば当然ですね。

じゃあ,原始反射と発達について研究論文を発表している人はいないのか…? と思って探してみたら,数は少ないけれどいくつかの論文と出会えたので,ここでひとつ紹介してみます。

「特異的読字困難を抱えるこどもへの原始反射運動の反復の効果:無作為二重盲検試験」

イギリスの大学の心理学部で行われた研究のようです。

事前スクリーニングで選ばれた,読むことに困難があって非対称性緊張性頚反射(ATNR)が残存している8-11歳のこどもたち60人が,年齢・性別・言語性IQ・読字能力・ATNR残存の程度に差がないよう20人ずつ3つのグループに分けられました。そして1年間,それぞれのグループはこんなふうに過ごすことになります。

(1)実験群:毎晩10分程度,モロー反射・緊張性迷路反射・ATNR・対称性緊張性頚反射(STNR)の動きを真似た体操をする。

(2)プラセボ群:毎晩10分程度,原始反射の動きとは関係のない動きの体操をする。

(3)対照群:これまでどおりの生活をする。

2カ月に一度研究者と会うとき,実験群とプラセボ群はそれぞれ新しい体操を教わって,それを家でやったようです。

1年間の介入前後を比較すると, (1)のグループでは(2)(3)のグループと比べてATNR残存の程度が大幅に軽くなり,見たいところへ焦点を当てるための眼球運動の回数が少なくなり(= 見たいところを見るための苦労が軽減し),2種類の読み能力テストと書くスピードの検査などで有意な改善がみられたそうです。

この研究のとても面白いところは,(2)のグループが設定してあることだと思います。

原始反射の動きを再現して繰り返す運動にははっきりした効果があるけれど,原始反射と関係のない運動(ただ腕を肩の高さまでゆっくり上げて下ろす,など)を反復しても原始反射の統合にも読み書き能力の改善にも特別な効果を期待できないということを示してくれています。

ということは,身体アプローチを使って脳の発達を効率よく促すためにはただやみくもに運動すればいいわけじゃなく,原始反射の残り具合を評価したり原始反射の動きの原理を理解したりした上で身体を動かしたほうがいい,と言えるかもしれません。

やり残した原始反射の動きを再現してきちんと回数券を使いきって,発達のシャンパンタワーのグラスを満たしきることの大切さがわかるこの研究。発表されたのはなんと2000年…こんなに早くからこういう論文が書かれていたんですね。

また興味深い文献を見つけたらご紹介していきたいと思います。