ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

発達障害が◯◯発達障害となったのは,大きなパラダイムシフトです!

花風社の新刊「NEURO」を読みました。

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花風社さんの本のことは,これまでも何度もこのブログで触れてきていますが,今回の新刊のテーマはまさに「NEURO」=「神経」。

アメリカ精神医学会(APA)が数年に一度改定する精神疾患の診断基準「DSM-5」で,「発達障害」が「神経発達障害」へと名称変更されたことに端を発した本と言えます。

発達障害」という言葉は,人間性や人格の発達が損なわれているみたいな言い方でイメージがよくない。
だから,人間性じゃなくて神経の発達の問題なんだよ,と強調するために「神経」の2文字が加わることになったんだ,とどなたかの講演でお聴きした記憶があります。
それはすごくいいことだな,と感じていました。

でも,花風社の浅見社長のお考えはそれ以上。
発達障害から神経発達障害への変化は,頭蓋骨の中の脳というブラックボックスの中に生まれつき存在している介入不可能なものから,脳だけじゃなく背骨の中(脊柱管)を貫く中枢神経や全身に張り巡らされた末梢神経もひっくるめての発達障害として扱うことで,発達の未熟な部分はあってもより変化を起こしやすい状態として考える時代が来たということだ,と。

5年くらい前から脳の働きに身体の運動から働きかけるアプローチについてあれこれ興味を持って学んできて,2年前ににも気づかせてもらえた私には,とてもとても腑に落ちる話です。

ここで懺悔すると、私もかつては立派な凡医でした。
発達障害は生まれつきの脳の機能障害で、一生変わることはない」と検査で知的障害が明らかになったお子さんのお母さんに言ったこと,ありますもん。
平成15年に子どもの心を専門に診る病院で働かせていただくようになったときのことです。
初めてお子さんと親御さんにこの夢も希望もない宣言をしたときのえも言われぬ無力感のことは今も忘れられません。
Rちゃんという未就学の女の子だったな。
ごめんね、Rちゃん。
ごめんなさい、お母さん。
当時の私は,医学部の講義で習った知識のまんまの言葉を何の疑いも抱かずに口から吐き出していました。それ以上の知識がなかったんですよね…。

私は今も凡医です。
脱凡医めざして,必死で足掻いてる凡医。
お子さんと親御さんにいちばん伝えたいのは「希望」だと今は心の底から思っています。
でも,まだ希望を現実にするための知識は不十分だし,お子さんや親御さんや同僚たちの誰もをしっかり説得できるほどの力は身についていない。知っている範囲のことをこそっとお伝えして,少しでも成果を感じていただくというのが精いっぱいです。

いつか「脱凡医したぞ!」と自信を持って堂々と言えるような,お子さんや親御さんにもそう認めてもらえるような診療を実践できるようになりたいと思います。

「NEURO」を読んで、「発達障害」が「神経発達障害」になったことの重大さや希望を感じてくださる方が、当事者さん、保護者さん、支援者さんたちの中に増えてくださればいいなぁと願っています。

みんなでこのパラダイムシフトを喜び,実践していきましょう♪