ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

「ADHD」の発症メカニズムの謎へ近づく

ADHD」発症と遺伝と愛着の関係は、そしてそれ以外の要因は…?

昨日は最後まで丁寧に読み切れなかったので、今日こそこちらの本の続きを。\\


今回は第七章です。これまでのレビュー投稿はこちら。






 


前回感じた疑問への答えがたくさん見つかりました。


第七章「見えてきた発症メカニズム」

愛着障害が強く疑われる場合でさえもその診断が下されることはあまりない遺伝要因など先天的な問題で起きているか養育上の問題で起きているかを明確に見分けるの難しいという現実的な理由もある。それに養育要因で障害が起きたとなると親の方も心を穏やかではない。かたや発達障害は誰も責任を問われることもなく、堂々と支援を受けることもできる。発達障害は「日の当たる診断」なのである。

愛着障害だと判断したとしてその診断をどう扱うべきなのかと思っていたところへこの説明。「発達障害は、誰の責任も問わない日の当たる診断」という表現に、なるほど…とうならされました。

当初、愛着の障害は孤児のように早くに養育者を失った不幸な子どもたちに限った問題と考えられていたが、研究が進むにつれ一般家庭で育っている子どもたちにも愛着の安定したタイプと不安定なタイプがあることが分かった。不安定型に分類される子どもは、①母親がいてもいなくても無関心な「回避型」 ②母親の後を過剰に追うも、素直に甘えられない・攻撃的態度をとる「抵抗/両価型」 ③母親の機嫌や態度次第で反応が大きく変わる「無秩序型」がある。ADHD との関係が最も深いのは無秩序型、次いで回避型。「抵抗/両価型」は過保護なまでに世話を受けた後愛情を奪われる経験をすることが典型的な背景要因。将来不安障害や境界性パーソナリティ障害持続性うつ病などのリスク要因となると考えられている。

愛着障害は本当に不勉強で、3つのタイプ分けについては初耳です。不安定な愛着に3つのパターンがあること、無秩序型と回避型が ADHD と関連があること、意識しておきたいと思います。

親の死、親の離婚、親の精神障害や物質乱用、公的支援受給、住所不定など、不幸な出来事が重なるとその後 ADHD と診断され投薬治療を受けるリスクが高まるというコホート研究の結果がある。 安定型愛着を不安定型に変えるリスク要因と ADHD と診断されるリスク要因は少なからず重なっている。

様々な不幸な状況とその後 ADHD と診断されるリスクの相関。愛着や安定した愛情という要素を介して考えると理解しやすいように感じました。

愛着障害ADHD の関係から ADHD と診断された状態を4つに分類すると、①発達障害による本来の ADHD(2割程度?) ②本来の ADHD愛着障害を含む養育環境要因によって悪化している ③主に愛着障害を含む養育要因によって疑似 ADHD を生じている場合(脱抑制型愛着障害=DAD など) ④主に養育要因以外の原因により ADHD を生じている場合(これのみで起こることは稀)

①が2割程度、④ののみで起こることは稀、となると②③が大半を占めることになりますし、成人 ADHD については③と④が9割とも本文中に書かれています。③の養育要因による疑似ADHDがいかに多いか、容易に想像がつきますね…。

④の「養育要因以外の原因」について、テレビやPCスクリーン視聴時間が成人時の注意に問題につながるという研究結果もある。 その他、鉛、食品添加物(合成着色料や合成保存料、合成甘味料など)、胎生期のアルコールやニコチンへの暴露などの関連も指摘されている。

スクリーン視聴時間、…ギクッとします(笑)。鉛や食品添加物についてはブロムベリ先生の著作や分子栄養医学でも言及されているところですね。

環境の影響による遺伝子変化=エピジェネティクスの関連も指摘されている。これまで遺伝要因と養育要因の関与を正確に知ることが難しかったのは両者の間には強い相互作用が働いていたためだ。環境要因が遺伝要因に加わった時には ADHD 発症のスイッチを押してしまうという仕組みを持つだけでなく遺伝要因が環境要因にも影響し自ら過酷な環境を引き寄せてしまう。子どもに対する虐待や不安定な愛着が数年後の ADHD 症状につながり得るという複数の研究結果もある。

たしかに、遺伝か環境かを分けにくくなっているのは、環境が遺伝子に作用するから、と考えるととても納得がいきます。実際にそこを厳密に分けて考えるのは無理ですよね…。


本は、いよいよ終盤に…


結局、この本を読めば読むほどADHDと診断されている人の大半は「本来の」ADHDではない、ということがどんどん明らかになってきている感じです。

でも、子どもも大人もADHD症状で困っている。

どうすればうまく過ごせるようになるのか、苦痛を軽減することができるのか。

筆者による解決策の提言の前に、もう1章あるようですが、最後まで楽しみに読み進んでいこうと思います。