ここのすラボ2.1

こどもの こころを のびのび すくすく 育てることをめざして試行錯誤中の児童精神科医なおちゅんのブログです。

気をつけて! 運動のやりすぎは、むしろ不眠のもと?!

しぶとく、運動と睡眠の論文探し

最近ちょっと病みつきになりすぎの感もありますが、今日も運動と睡眠に関する論文を読んでみました。

今回はホルモンや神経伝達物質の話も登場します。
全文公開の論文だったので、1本をこってりご紹介しますね。

早速、本日の論文

Exercise, sleep and cytokines: Is there a relation?(Sleep Medicine Reviews 11(3), pp.231-239, 2007)
運動、睡眠とサイトカイン:関連はあるの?

なぜか(?)こちらからDLできます。
https://www.researchgate.net/profile/Ronaldo_Santos5/publication/6315980_Exercise_sleep_and_cytokines_Is_there_a_relation_Sleep_Medicine_Reviews_11_231-239/links/5c1cbb87458515a4c7ee25ee/Exercise-sleep-and-cytokines-Is-there-a-relation-Sleep-Medicine-Reviews-11-231-239.pdf

以下、ちょっとヘビーですができるだけザクザク噛み砕いて読んでいきますね。

・今のところ、運動が睡眠のパターンと質に及ぼす影響を説明するための主な仮説は、温度調節仮説と代謝仮説の2つ。
温度調節仮説では、睡眠の開始は血管拡張による末梢部での熱喪失と発汗量の増加、基礎代謝率減少と体温の低下が関連するのではないかといわれている。
代謝仮説では、睡眠は代謝の需要を低下させることでエネルギーを回復・保存させて(これが徐波睡眠と関連)、日中のエネルギー支出の増加と相関する可能性が示唆されている。
多くのホルモン、外因性薬物に反応して産生される物質などの代謝産物が、睡眠構造の変化を促進するのではないかと推測されている。

現代社会では睡眠時間は徐々に減少している。慢性的に運動を行うことは、安価で薬も使わず睡眠障害を軽減するための重要な役割を果たす可能性がある。
しかし、運動の強度、持続時間、運動を行う日のスケジュールなどについては、まだ文献上でも議論されている。運動が睡眠に及ぼす影響は、体温調節やエネルギー消費によるものであるという仮説があるにもかかわらず、その調節はサイトカイン、特に運動によって増強される炎症性サイトカインなどによって媒介されているのではないかとも言われ、つまり運動やトレーニングは睡眠に二重の効果を及ぼしているものと考えることができる。
実際には、運動が睡眠に及ぼす効果はいくつかの研究で報告されていますが、これは中等度の運動に限った話で、激しい運動を行うと有害な影響を及ぼす可能性がある。

・最大酸素消費量(VO2 Max)の 50~80%の強度で 80 分間以上の急性運動を行うと、運動負荷に比例して眠気が一過性に減少する。夜間に運動することでこれはより顕著になる。これらの変化はIL(インターロイキン)-1、IL-6およびTNF(腫瘍壊死因子)-aの血漿中濃度が上昇しているときに観察される状況とよく似ている。
前炎症性サイトカイン濃度、特にIL-6の濃度は運動後に増加する。これらのサイトカインは低濃度では眠気を誘発するが、運動負荷が大きくなるとIL-6の濃度が高くなり、覚醒状態になることがある。
運動が誘発するとわれわれが考えるサイトカインの変化が直接的に睡眠調節に作用するか、あるいはサイトカインが間接的にHPA(視床下部-下垂体-副腎系)を活性化することで体温を上昇させ、非REM睡眠量を減少させ、覚醒度を増加させていると考えられる。

…ちょっと疲れてきました(笑)。
後半戦、いきます。

・実際、運動中には身体の恒常性が乱れ、主にストレス応答に関連するいくつかのホルモンが放出される。運動によって誘発されるストレス反応は、血糖値の変化、体温上昇、骨格筋細胞の損傷などの要因によって媒介される。運動は、前炎症性サイトカインレベルを上昇させ、その結果コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチゾールの放出を引き起こします。HPA系ホルモン、特にコルチゾールは、運動開始時の値に戻るには数時間から数日を要する。健康な人では、CRH投与やヒドロコルチゾンの高用量投与が徐波睡眠を減少させることが研究で示されているが、その相互作用のメカニズムはまだよくわかっていない。CRHへのフィードバック作用が関与しており、コルチゾールが夜間のCRH分泌に及ぼす効果に依存していると考えられている。
したがって、運動の睡眠への影響を調節するメカニズムを理解するためには、運動の強度と持続時間だけでなく、急性の運動に対する睡眠反応を調節する可能性のある物質、主にサイトカインが再び安静時濃度に戻るのに十分な休息期間も考慮しなければならないことが明らかになった。

・睡眠に対するトレーニングの影響について、慢性的にサイトカイン(主にIL-6)が増加することが睡眠障害の原因と関連していることを示唆する研究もある。一方、身体トレーニングが睡眠の質の改善を促進する効果は、睡眠に中等度の不満を持つ人のみにみられるようだ。

・サイトカインなどの免疫系と運動との相互作用、運動による炎症反応と睡眠調節との相互作用についてはさらに研究を要するだろう。睡眠を調節するメカニズムは、睡眠を調節する特定の大脳領域に作用するか、または神経伝達物質、ペプチド、ホルモンを含むいくつかのシステムを間接的かつ動的に変化させる可能性がある。すべての問題を考慮すると、新たに研究を行う必要がある。それは、急性運動や中等度のトレーニングが誘発するサイトカインの増加が睡眠を調節できるか否かを評価し、こうした状況下での睡眠障害は、他のメカニズムの中でも特に炎症性サイトカインの慢性的な増加によって引き起こされるのではないかという仮説を検証するためにデザインされなければならない。

…ふー。

要するに?

結局、運動の強さや持続時間と睡眠の関係はまだはっきりしていなくて、でもどうやら運動をすることで体温や代謝が変化するのと同時にインターロイキンなどの炎症性サイトカインの濃度が変化することも睡眠状態に影響を及ぼしているらしいことがちょっと見えてきました。

どちらかというと、この論文では運動しすぎるとむしろ覚醒してしまうことに注目していて、それがインターロイキンの仕業かも、という論調でしたね。

「*しぶとく、運動と睡眠の論文探し
最近ちょっと病みつきになりすぎの感もありますが、今日も運動と睡眠に関する論文を読んでみました。

今回はホルモンや神経伝達物質の話も登場します。
全文公開の論文だったので、1本をこってりご紹介しますね。

早速、本日の論文

Exercise, sleep and cytokines: Is there a relation?(Sleep Medicine Reviews 11(3), pp.231-239, 2007)

なぜか(?)こちらからDLできます。
https://www.researchgate.net/profile/Ronaldo_Santos5/publication/6315980_Exercise_sleep_and_cytokines_Is_there_a_relation_Sleep_Medicine_Reviews_11_231-239/links/5c1cbb87458515a4c7ee25ee/Exercise-sleep-and-cytokines-Is-there-a-relation-Sleep-Medicine-Reviews-11-231-239.pdf

以下、ちょっとヘビーですができるだけザクザク噛み砕いてみます。

・今のところ、運動が睡眠のパターンと質に及ぼす影響を説明するための主な仮説は、温度調節仮説と代謝仮説の2つ。
温度調節仮説では、睡眠の開始は血管拡張による末梢部での熱喪失と発汗量の増加、基礎代謝率減少と体温の低下が関連するのではないかといわれている。
代謝仮説では、睡眠は代謝の需要を低下させることでエネルギーを回復・保存させて(これが徐波睡眠と関連)、日中のエネルギー支出の増加と相関する可能性が示唆されている。
多くのホルモン、外因性薬物に反応して産生される物質などの代謝産物が、睡眠構造の変化を促進するのではないかと推測されている。

現代社会では睡眠時間は徐々に減少している。慢性的に運動を行うことは、安価で薬も使わず睡眠障害を軽減するための重要な役割を果たす可能性がある。
しかし、運動の強度、持続時間、運動を行う日のスケジュールなどについては、まだ文献上でも議論されている。運動が睡眠に及ぼす影響は、体温調節やエネルギー消費によるものであるという仮説があるにもかかわらず、その調節はサイトカイン、特に運動によって増強される炎症性サイトカインなどによって媒介されているのではないかとも言われ、つまり運動やトレーニングは睡眠に二重の効果を及ぼしているものと考えることができる。
実際には、運動が睡眠に及ぼす効果はいくつかの研究で報告されていますが、これは中等度の運動に限った話で、激しい運動を行うと有害な影響を及ぼす可能性がある。

・最大酸素消費量(VO2 Max)の 50~80%の強度で 80 分間以上の急性運動を行うと、運動負荷に比例して眠気が一過性に減少する。夜間に運動することでこれはより顕著になる。これらの変化はIL(インターロイキン)-1、IL-6およびTNF(腫瘍壊死因子)-aの血漿中濃度が上昇しているときに観察される状況とよく似ている。
前炎症性サイトカイン濃度、特にIL-6の濃度は運動後に増加する。これらのサイトカインは低濃度では眠気を誘発するが、運動負荷が大きくなるとIL-6の濃度が高くなり、覚醒状態になることがある。
運動が誘発するとわれわれが考えるサイトカインの変化が直接的に睡眠調節に作用するか、あるいはサイトカインが間接的にHPA(視床下部-下垂体-副腎系)を活性化することで体温を上昇させ、非REM睡眠量を減少させ、覚醒度を増加させていると考えられる。

…ちょっと疲れてきました(笑)。
後半戦、いきます。

・実際、運動中には身体の恒常性が乱れ、主にストレス応答に関連するいくつかのホルモンが放出される。運動によって誘発されるストレス反応は、血糖値の変化、体温上昇、骨格筋細胞の損傷などの要因によって媒介される。運動は、前炎症性サイトカインレベルを上昇させ、その結果コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチゾールの放出を引き起こします。HPA系ホルモン、特にコルチゾールは、運動開始時の値に戻るには数時間から数日を要する。健康な人では、CRH投与やヒドロコルチゾンの高用量投与が徐波睡眠を減少させることが研究で示されているが、その相互作用のメカニズムはまだよくわかっていない。CRHへのフィードバック作用が関与しており、コルチゾールが夜間のCRH分泌に及ぼす効果に依存していると考えられている。
したがって、運動の睡眠への影響を調節するメカニズムを理解するためには、運動の強度と持続時間だけでなく、急性の運動に対する睡眠反応を調節する可能性のある物質、主にサイトカインが再び安静時濃度に戻るのに十分な休息期間も考慮しなければならないことが明らかになった。

・睡眠に対するトレーニングの影響について、慢性的にサイトカイン(主にIL-6)が増加することが睡眠障害の原因と関連していることを示唆する研究もある。一方、身体トレーニングが睡眠の質の改善を促進する効果は、睡眠に中等度の不満を持つ人のみにみられるようだ。

・サイトカインなどの免疫系と運動との相互作用、運動による炎症反応と睡眠調節との相互作用についてはさらに研究を要するだろう。睡眠を調節するメカニズムは、睡眠を調節する特定の大脳領域に作用するか、または神経伝達物質、ペプチド、ホルモンを含むいくつかのシステムを間接的かつ動的に変化させる可能性がある。すべての問題を考慮すると、新たに研究を行う必要がある。それは、急性運動や中等度のトレーニングが誘発するサイトカインの増加が睡眠を調節できるか否かを評価し、こうした状況下での睡眠障害は、他のメカニズムの中でも特に炎症性サイトカインの慢性的な増加によって引き起こされるのではないかという仮説を検証するためにデザインされなければならない。

…ふー。

要するに?

結局、運動の強さや持続時間と睡眠の関係はまだはっきりしていなくて、でもどうやら運動をすることで体温や代謝が変化するのと同時にインターロイキンなどの炎症性サイトカインの濃度が変化することも睡眠状態に影響を及ぼしているらしいことがちょっと見えてきました。

どちらかというと、この論文では運動しすぎるとむしろ覚醒してしまうことに注目していて、それがインターロイキンの仕業かも、という論調でしたね。

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「運動でよく眠れるようになるのは、不眠症状が中等度の人だけ」というのも面白い指摘でした。
そして、運動すればするほどよく眠れる、ということではなさそうです。
運動で引き起こされるホルモン系の変化はかなり長く続く(数日間から数日?!)というのも驚きでした。

本当に知りたいことにはまだたどり着けていない気がしますが、引き続き運動と睡眠の関係は関心をもって追いかけたいと思っています。運動でよく眠れるようになるのは、不眠症状が中等度の人だけ」というのも面白い指摘でした。
そして、運動すればするほどよく眠れる、ということではなさそうです。
運動で引き起こされるホルモン系の変化はかなり長く続く(数日間から数日?!)というのも驚きでした。

本当に知りたいことにはまだたどり着けていない気がしますが、引き続き運動と睡眠の関係は関心をもって追いかけたいと思っています。